【漫画レビュー】ちーちゃんはちょっと足りない【身一つで海に出た少女の話】

Youtubeを見ていたらこの漫画が紹介された動画が流れてきたので気になって読んでみました。
かわいい絵柄+鬱要素がすきなんですよ。

https://www.cmoa.jp/title/76691

↑会員登録後に税込770円の70%オフで読めます。
(私はふつうにKindleで買っちゃいました)

この作品はおもに以下の友だち3人グループをメインに、
女子中学生たちの平凡でなごやかな日常を描いたものです。
とある一人を除いて。

千恵(ちーちゃん)
ひとことで表すと超絶アホの子

・タイトルの通りいろんな面においてちょっと(というかかなり)足りない中2の女の子
・具体的にはおこづかい、成績、育ち、身長、精神の成熟など
・でもそんなことを気にも留めない天真爛漫で奇天烈な元気っ娘
・言動や思考が幼稚ながらあまりにもまっすぐで、どこか憎めない

ナツ
繊細で人畜無害。

・ちーちゃんとは小1からの付き合いで、同じ団地に住む同級生。
・周囲にはやさしい、大人しいと評されるが
 それは消極的でものをハッキリ言えない性格の裏返し
・他人とくらべて人知れず劣等感をかかえがち
・ちーちゃんとほどではないが金銭面はあまり余裕がなく
 成績も決してよくないうえ家柄も良いとはいえない


サバサバ系リア充

・ナツと対照的な人物。
・連休は家族旅行でグアムにいける程度に裕福で成績優秀、
 正義感がつよく歯に衣着せぬ物言いをする
・上記2人と違って1年上の先輩の恋人がいる

途中から鬱展開が入ってくると動画では言っていたので
はやく来ないかなーと思いつつ読んでいたのですが
鬱の部分と対比させるための
前半の日常パートも軽妙なやりとりが続いて面白く、
後半の展開もじめっとしていて私好みだったので
せっかくなら忘れぬうちにと思い、
半年以上ぶりにブログを更新するに至りました。

結論から言うと
わかりやすい鬱漫画を求めている方にはおすすめしません。
消化不良になるので。
でも観るものにゆだねる系の終わり方が好きな、

想像力ゆたかな方には非常におすすめ。

https://www.cmoa.jp/title/76691

次から序盤から順番にネタバレありで
おもにナツに焦点を当てるかたちで感想を書いていきます。

目次

各話の感想 & ネタバレ

第1話

正直こういうのって最初のほうは退屈させられるのかなーと思ってました。
ドキドキ文芸部みたいなちょっとダレ気味の展開を予想してましたね。
ただ「ちーちゃんはちょっと足りない」は平和な日常パートも
子気味良いボケとツッコミの応酬でページをどんどん繰ってしまう自分がいました。

というのも女子中学2年生らしからぬ擦れた語彙を引っ提げてツッコんでくるんですよね。

第一問
じゃじゃん!
尿をつくる臓器の名称は?

昼飯時に尿関連の問題出すなよ

ちーちゃんはちょっと足りない 第1話

答え全部が睾丸になるような腐れテストつくったら
先生瞬殺で懲戒免職だよ!
あほ────っ!

ちーちゃんはちょっと足りない 第1話

腐れ○○をジョジョ以外ではじめて見ました。
およそ中2女子が使うワードではないですね…

話が進んでいくにつれキャラクター、
とくにナツの掘り下げがメインとなっていきます。
そう、本作の主人公はじつはちーちゃんではなくナツなんですね。

第2話

第2話ではナツが人間関係に対して敏感に反応する様子が見てとれます。

いつも一緒にいる委員長と副委員長の
奥島くんと如月さんとの間でやりとりを交わし、

あっもしかして私空気読めてない感じかな

ちーちゃんはともかく私は邪魔かなあ

ちーちゃんはちょっと足りない 第2話

あの二人ってどこまで進んでいるんだろう

ちーちゃんはちょっと足りない 第2話

と年頃の感想を抱きます。

先の人物紹介で書き忘れましたが、
ナツは他人の心の機微にするどく、思慮深い性格であろうことが分かります。
友人やクラスメイトとの会話が終わったあとに
「脳内反省会」とかしだすタイプのキャラですね。

あと第2話は最後の方で「私の真似────⁉」って叫ぶナツが異様にかわいいので
読まれた際は注目してみてください。

第3話

第3話はちーちゃんメイン回。靴を新調しに大型モールに行きます。
ここで「あ、見かけによらずものをだいじにする子なのかな?」
という意外な印象を抱かされます。
(こどもってすぐものに飽きますよね)

200円のガチャガチャをみっともなくねだって
ヘアゴムが出てきたら満面の笑みで「かわいい」と言ったり、
気に入ったデザインの靴のサイズが合わず涙したり、
モールでばったり会ったナツにこれ見よがしな態度をとったり…

まあこれだけだとなんとも言えないわけですが、
後の話でそのヘアゴムが奪われた際に泣いて返してもらうよう請うたり、
最終話で第3話ぶりにちーちゃんの靴が明確に描写された際にここで買った靴を履いていたりと
やはりここでの印象は確信に変わることになるんですね。

「ものをだいじにするキャラなのはわかった、だからなに?」
という疑問が飛んできそうですが、
のちの話でナツとの対比が効いてきます。

第4話

いよいよ顔をのぞかせる本作の闇。
ナツが自分と周りの人間を比較して、
自分を卑下するようなセリフが一気に増えて不穏な空気が漂います。

家族旅行でグアムに行った旭や
グッズショップではしゃぐギャル集団をうらやむあたりが
いかにも等身大の中学生だなぁといった感じ。

みんなすごいなあ
(中略)
しかもみんな恋人いるし
私なんか
私なんか

ちーちゃんはちょっと足りない 第4話

はあ
私たちは
なんだか
私たちって

本当何もないな

ちーちゃんはちょっと足りない 第4話

これだけ読んでると「急にネガティブになったな…」と思われるかもしれませんが
漫画を追うと

他人のことをよく見ている

自分との差異が浮き彫りになる

凹んでいる部分にコンプレックスを抱く

っていう流れであることが分かります。
ちなみに「私たち」はナツとちーちゃんです。
なにかと共通点が多いんですよねこの2人。

ナツに一緒くたにされて
「本当何もないな」と思われてるちーちゃんがすこし不憫。

第5話

ちーちゃんとその姉である志恵のやりとりから幕を開ける第5話。
ここにきてストーリーが大きく動きだします。

ナっちゃんは大人しくて優しくて真面目ですごくできた子なのに
あんたなんかと一緒にいてくれるんだから

たまには何かナっちゃんに恩返ししなきゃね

ちーちゃんはちょっと足りない 第5話

あんたがナっちゃんにしてあげられることって
なんだろうね

ちーちゃんはちょっと足りない 第5話

周りの人間のナツへの評価が描写されるのはここが初めてなんですね。
いわゆる「いい人」という評価ですがここでは決して悪い意味ではないでしょう。

しかしこの後者のセリフがきっかけとなって
翌日ちーちゃんはなんと
女バスの部員が顧問の誕生日プレゼントのために
集金していた3000円を盗んでしまいます。

ナツいい奴だからいつも

やる!

ちーちゃんはちょっと足りない 第5話

一切の曇りなき眼でそう言って、手に持った3000円をナツに見せるんですね。
この前に女バスの部員から「ちーちゃんが盗ったのでは」と疑われるシーンがあったので
油断していました。お前ほんとに盗るんかいと。

女バスのお金がなくなったことを知っていたナツですが、
そのお金を1000円だけ受け取ってしまい第5話は終了。

えぇ…と思いましたが
・女バスのお金と確定していない
・ショップで気になったブランドもののでっかいリボンを買うために
 お小遣いの前借りを昨日母親にかけあったが断られ泣き腫らした
という事情を考慮するとうーんまあ仕方ないのかなといった印象。

ナツの「本心を言えない性格」が描かれている回でもありますね。
女バス部員がちーちゃんを疑った際もナツはその場にいたのですが、
旭が部員の胸元を掴むまでなにも言えずにいました。

たいへんそんなの違うよって言わなきゃ

違うよって言わなきゃ
違うよって言わなきゃ

ちーちゃんはちょっと足りない 第5話

第6話

布団のなかで「今日学校行きたくないな」と悶々とするナツからスタートするのですが、
ものが散乱して部屋がやたら汚いのがまず目につきます。

「ちーちゃんと違って物持ち悪いタイプなのかな」

と思わされるわけですが、直後に挟まれる昔の家族旅行の回想で
その直観が正しいことが分かります。

「物への態度」は順当に考えると
「人への態度」を暗喩しているものだと思われます。
が、この段階ではまだあまり語ることがないのでスルーです。

結局その日は仮病を使い、病院にいくという口実で気になっていたデカリボンを
買いに行き、翌日はウキウキでそれを付けて登校するわけですが
そのシーンもまた印象的なんですよね~。

でもその時 みんなに注目されてこのリボンうらやましがられたらどうしよー

ちーちゃんはちょっと足りない 第6話

ああいやだなあなんせ派手だし

そういうの苦手だから緊張してきた
保健室行こうかな

ちーちゃんはちょっと足りない 第6話

どうしよーとかいやとか言ってますがここナツめっちゃニヤニヤしてます。

しかし残念ながらいざ教室に入ってもみんな無反応。
いつメンの旭すらなんのリアクションもくれません。

そんなわけないよね
わかってたよ

ちーちゃんはちょっと足りない 第6話

通読2回目で気づいたのですが、ナツは自分に対する期待値が高い子なんだなと感じました。

自分に多大な期待をする

現実がそれを下回る

自己嫌悪に陥る

みたいな流れが以降もあるのですが、このリボンのシーンはそれが特に顕著に出てますね。


あと、ささいなことなんですが
リボンがやたら大きいのも個人的に気になるポイントでした。

仮病のお見舞いに来てくれたちーちゃんに対して
「リボンはやってるんだよ」
と買ったばかりのリボンを後頭部にのせて言うシーンがあるので
見返してみると、たしかにクラスの女子の多くがリボンを付けているんですね。

でも誰もかれも付けているのは手のひらサイズ以下のもの。
頭の幅ほどあるおおきなリボンを付けているのはナツただ一人だけ。

リボンの大きさで己の「足りなさ」を補おうとした結果でしょうか。
もしくはナツの頭の中でうずまく、悩みや劣等感などの大きな自意識の具現化でしょうか。
前者は物語に沿った解釈で後者はメタ的な解釈なので別に排反するものではないですね。
もしかしたら両方正解なのかもしれない。

…ふと岡田斗司夫の魔女の宅急便の解説切り抜きを思い出しました。
ここまったく同じこと言ってるので。
気になる方はYoutubeで「魔女の宅急便 岡田 リボン」で検索してみてください。


その後、「探したけど3000円が見つからなかった」
という女バスのギャル、藤岡さんの発言に滝汗を流すほど狼狽し
ナツは保健室で寝込んでしまいます。

ベッドの上で惨めさや不満、怨嗟にさいなまれるナツ。
横のゴミ箱にはあのおおきなリボン。

結局 誰からもリボンに触れられなかった

高かったのに
苦労したのに
ちーちゃんが私のためにお金とってきてくれたのに

ちーちゃんはちょっと足りない 第6話

私たちはなんでこんなに足りないの?
余った物でいいからちょうだいよ何か

ちーちゃんはちょっと足りない 第6話

ああもう全部いやになる
学校なんて死んでしまえ

ちーちゃんはちょっと足りない 第6話

こういう本心を吐露できる機会がいればナツも変わるんだろうなと思いつつ。

場面はかわってちーちゃんが
旭と普段勉強を見てくれている奥島くんと如月さん2人に対して
女バスのお金をとったとポロリして第6話は終了。

第7話

ちーちゃんの悪事があっさりと白日の下にさらされたので
女バス部員に謝りにいく旭とちーちゃん達。

精神面が幼く、もともと罪の意識がなかったので
なかなか謝らないちーちゃんでしたが、
途中でやってきた女バス部員の藤岡さん(ギャルの子)が
機転を利かせ、ごめんなさいを言うことができました。

まさか藤岡さんがちーちゃんをあやしてくれるなんて
わかんないもんだねー

旭ちゃんもちーちゃん思いだ
ちーちゃんは人に恵まれてるね うん

ちーちゃんはちょっと足りない 第7話

いやー人当たりの良いギャルはいいですね。
絵柄の問題で人相悪すぎて性悪の線が消しきれてなかったので余計に
カタルシスを感じました。

ゴタゴタのあった部員と旭も仲直りして一件落着。

…とはなりませんよね。
1000円を使ってしまったナツがこの場にいないんですから。

帰り道にナツがばったり旭とちーちゃんに会った際、
旭にリボンについて遠回しに追及されたことで
ナツの心境(と作画)は荒れに荒れまくります。

というのもあの1000円についてはたびたび
「秘密だからね」とナツは釘を刺していました。
ちーちゃんに裏切られたと感じたのでしょう。

ちーちゃんが旭ちゃんに言ったんだ
絶対そうだ

ちーちゃんはちょっと足りない 第7話

ちーちゃんすら私を否定するなんて

ちーちゃんも別に私じゃなくてもいいんだもんね

ちーちゃんはちょっと足りない 第7話

あ──あつまんない自殺でもしよっかな

みんな私を嫌いでしょ
後悔すればいいんだ
ちーちゃんも
お母さんも
クラスメイトも

ちーちゃんはちょっと足りない 第7話

ちなみにこの↑シーンが私は一番すきです。
自殺というワードが出てくると
「あ、このマンガ一線越えてるな」とワクワクします。
版画のような描写もゾクっとするのでぜひ見てほしい。

ただこんなにもどす黒い感情を抱いてもことばに表れないのがナツです。
口にしたのは

いい
今日は1人で帰るから

ちーちゃんはちょっと足りない 第7話

ただのこれだけ。
この表面上の冷静さに恐ろしさすら覚えます。

この回ではナツとちーちゃんなど周りの人間のギャップが克明に描かれました。

思いを言葉にすることでまわりと衝突し、調和したちーちゃん達。
言葉にすることを避け、一人で抱え込むナツ。

ナツの思考が悪化の一途をたどるなか、物語は最終局面へ。

第8話

前話の終わりに姉の志恵に何も言わず
ふらっと家を出ていったちーちゃんを探すために
ナツが街に繰り出します。

もちろん志恵に頼まれて、なわけですが
この時ちょいと彼女らに対する当たりが強いんですよね。

もしかして旭ちゃんかな⁉

……
なんだ志恵ちゃんか

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

正直めんどうくさいなあ

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

ナツはちーちゃんに裏切られたと思っているので
こう思ってしまうのもまあ無理はないんですけどね…

でも実際には第7話で
誰に金をあげたのか、と旭に強く詰問された際にちーちゃんは

ふたりだけのひみつだから!

ちーちゃんはちょっと足りない 第7話

ちーたちいっつも足りないから!

いいやつだからちーもいいこと
してやりたかっただけなのになんで!

ちーちゃんはちょっと足りない 第7話

と最後までナツのことを守り抜いていたんですね。

友人をどれだけ大事に思っているかがこの2話で対比されています。

人への態度を暗示するものの扱いの違いが
前もって対比されていたので
「ああ、やっぱりか」
とナツの上記のセリフも違和感がありません。

しぶしぶではあるもののちーちゃんを探すために家を出ようとした際に、
ナツは母からの小さい封筒を机に見つけます。

中身はナツを想う置き手紙とリボンを買うためにいつかねだった1000円札。
顔を赤くしながらも口を衝いて出るのは悪態ばかり。
やはり本心を口にするのが人前に限らず苦手な様子です。

というか、周りの親しい人間はみなナツに対して好感を抱いているんですよね。
ちーちゃんには懐かれ、
志恵には頼られ、
母には大切にされ。

前話で「ちーちゃんは人に恵まれてるね うん」というセリフがありましたが、
ナツもちゃんと恵まれているんですよ。

ちーちゃんを探すためにナツは2人ゆかりの地を歩いて回ります。
このとき回想のなかのナツとちーちゃんが今のナツと同じ風景のなかに描写されるんですよ。

公園で砂場遊びをしていたり、
通学路を走ったり、
少ししか飲めない炭酸を買ったり。

2人の幻影を追いつつ、ナツがポツリ。

ちーちゃん
どっか行っちゃうの?

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

こういうのは否応なしに胸がギュッてなりますよね…


さて、4時間ほど探し回ってもちーちゃんは見つかりません。
駅前でふとケータイから顔をあげると
すこし先に如月さんと藤岡さん女バス部員たちと一緒に歩いている旭を発見してしまいます。

近くの建物に駆け込み、
いままでずっと募らせてきた旭への劣等感を爆発させるナツ。

大嫌いだよ旭ちゃん

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

と「口頭」で言い放つナツ。
今気づきましたがこの子、誰かに対するマイナスの感情や悪意はスッと言葉にできるんですよ。

よかった!
旭ちゃんありがとう
私も藤岡さんってちょっと苦手で

ちーちゃんはちょっと足りない 第5話

( 「私も」は「ちーちゃんと私は」という意味です。
 ちーちゃんが藤岡さんに絡まれて硬直してたので)

どうしたの?もしかしてまた藤岡さんに絡まれたの?

嫌だよねあの人

ちーちゃんはちょっと足りない 第7話

グレるって楽だよねほんと

ちーちゃんはちょっと足りない 第7話

一方、自分にやじるしが向いた負の感情は
決して表出させないので周りが気づけず
一人で抱え込むんですよね。

大嫌いだよ旭ちゃん、のセリフの直後に

ずっとそっちに行きたかったんだね
旭ちゃん

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

というセリフがつづき、
もしかしてちーちゃんも「そっち」側に
行ってしまったのではと不安に駆られます。

旭に電話でちーちゃんがそちらにいないかと聞くも
いないと返事され、ナツは胸をなでおろしてしまいます。
それに気づきまた自己嫌悪に陥るナツ。

それでもちーちゃんがいなくなったら私は困る、と思い直します。

こう聞くと一見感動的なワンシーンですが
一つ気にかかるセリフがあったので引用します。

出会いのこととか
一緒にいて楽しかったことなんて
あんまり覚えてないんだけど

だからって大切じゃないわけじゃない

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

省略しましたが第4話で小1のころの出会いについては
回想が入って「ああそんなことあったな」と胸中で心の中でつぶやいているんですよ。
そしてここまでの道中でちーちゃんとの思い出もしっかり振り返ってるんですよ。

え?これでなんで「あんまり覚えてない」判定なの?

と、このセリフを読んだときに違和感を覚えました。
やっぱりナツは自分に多くを期待しがちなのかな、と再び感じましたね。
いたって普通の現状でも期待値とのギャップのせいで自己評価が低くなるという、
デカリボンのときと同じ構図。

さらに直後もこのデカリボン思考が連発。
歩き疲れてバスで帰ろうとポケットを探って出てきた母の手紙を見て
顔をゆがめ、過剰な自己卑下を繰り返します。

友達も少なくてバカでワガママで
性格も悪い娘でごめんね

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

だからこんな親不孝者に優しくするのはやめて

余計に辛いから

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

傍目にはどこにでもいる女子中学生なのにですよ。
愛情のこもった置き手紙を書いてもらえる時点で
親不孝ではないのではないでしょうか…
私は親じゃないので分かりませんが…

志恵ちゃんが私のことをいい人って言ってくれたんだ

でも違うんだ

私めんどくさいって思ってしまったもん

今だってバスで帰ろうとした

私はクズだ

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

休日に人探しに呼ばれてめんどくさいは自然な感想だし
バスで帰るとかもはや人間性と何も関係ありません。
え?これがクズ?ってなりますよね。
ナツの理想の高さが推して知れるセリフです。

さて、この時点でナツに明確に好意的な感情を抱いている人物として
先にあげたちーちゃん、志恵、母がいますが
後者の二人を独断で突き放してしまいました。

これによりナツの心の拠り所はナツ視点においては
ちーちゃんだけとなりました。

しかしそれも決して盤石なものではありません。
ふと欄干に手をかけ立ち止まると暗澹たる妄想がナツの頭を支配し始めます。

本当はちーちゃんも旭ちゃんや奥島くんみたいな
人と友達の方がよかったんだろうな

私なんて団地が一緒ってだけの
つまらない縁だもん

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

ちーちゃんも「そっち」側にいきたいのではないか?
私は変われない、置いていかないでほしい。
私もみんなと同じが良かった──

そんな焦燥や諦めを抱えて欄干にもたれていると
ちーちゃんがどこからともなく現れます。

ちーちゃんは電車でショーを見に行っていたとのこと。
帰りが遅くなった理由は迷子かと尋ねると
藤岡さんに返すお金を工面するために
帰りは歩いたにすぎないことを知ります。
藤岡さんへのごめんなさいはちーちゃんの本心だったんですね。

いっぽう一人で電車に乗ったことがないというナツ。
ちーちゃんのこの成長を受けておそらく恐怖したことでしょう。
さきほどの孤独の妄想が現実味を帯び始めたのですから。

ちーちゃんも変わろうとしてるんだね

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

ここ、ナツの靴しか映ってないので
表情からニュアンスがくみ取れませんが、流れ的に
「ちーちゃんまで変わってしまうっていうの…?」
という絶望を伴うセリフだと思われます。

みなさんならここでどうするでしょうか。
唯一ともいえる友人が離れていかんとしている。
その友人の背中を追いかける?
ヤケになって諦める?
それとも別の友人を作る?

ナツの答えは

返さなくていいよ
藤岡さんになんて

あともう旭ちゃんとも遊べないから

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

私たち

ずっと友達だよね?

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

その友人の足を引っ張ることでした。

…ぞっとしませんか?
そのあと数ページ続くんですが、
ちーちゃんが「うん」と答えてくれたことに対し
ナツは本当に満足げで、喜色満面の表情で泣き笑うんです。

で、そのまま終わり。
第8話で完です。

ナツをもうちょっと深掘り

「ずっと友達だよね?」の真意

本心をいうことができないのがナツの性格だと私は解釈しているので
「ずっと友達だよね?」=「ずっと友達でいてほしい」
なんて言葉がでてくるのは少々違和感を覚えるポイントでもあります。

しかもその願いがちーちゃんに受け入れられ
屈託のない笑顔を見せていることを考えると、
あのセリフはやはり本心からくるものです。

なぜ最後ナツは本心を言えたのか?

本心を伝えざるを得ないほど精神的に追い詰められたから…
というのもあるとは思いますが、私は
このセリフが悪意の発露だから
のように思えます。

少し上で前述しましたが、ナツは他人を下げる発言はいとも簡単にやってのけます。
心の中でも藤岡さんをdisって、さらに旭たちのまえでもdisっていたので
思考と発言の一致から、あれらは本心でしょう。

そう、「本心は言えない」けど例外として
「悪意ある本心なら言える」のです。

そうなるとこの場合、
「ずっと友達だよね?」というセリフの真意は
「ずっと友達でいてほしい」なんてかわいらしいものではなく

「ちーちゃんはクズの私の隣がお似合いだよ」

みたいなところに落ち着きます。

ナツにとってちーちゃんは友達じゃない

と思うんですよね。そもそも。

というのもナツがちーちゃんのために能動的に動いたり、
自分が不利益を被ってまで守ったりというシーンが
この作品を通して一切ないんですよね。

第8話の冒頭でちーちゃんの捜索を面倒がったり、
ちーちゃんの窃盗が疑われた際に反論できなかったり。

それに対してちーちゃんはナツのために動いているんですよね。
犯罪とはいえ女バスのお金を盗ってナツに渡したり、
誰に渡したか吐けと言われても黙秘を貫いたり。

小1の出会いの回想でもちーちゃんがナツに話しかけていました。

ちーちゃんはナツのことを能動的に大切に思ってるし、
きっとナツがほかの誰かじゃダメなんだろうなという印象なのに対して
ナツはちーちゃんのことが受動的に大切である線がかなり濃厚です。
ほかに友達がいないから一緒にいる、という感じ。

ちーちゃんも別に私じゃなくてもいいんだもんね

ちーちゃんはちょっと足りない 第7話

旭にリボンのことをやんわり追及され、
ちーちゃんに裏切られたと勘違いした後のセリフ。

ここのちーちゃん「も」は解釈が分かれるポイントで

・ちーちゃんとは別に私じゃなくていい

・ちーちゃんは別に私じゃなくていいし、
 も別にちーちゃんじゃなくていい

という2通りの解釈ができます。

ここまでの話で
「旭は別にナツじゃなくていいんだろうなとナツは思ってる」
ことをはっきり示すシーンがないので

これはもしかして後者か?

と思わされたのですが、
第8話の旭が藤岡さんたちと遊んでいるのを
目の当たりにした直後のセリフにて

ずっと思ってたよ

本当は私みたいなつまらない人間なんかと
一緒にいたくなかったんだよね
旭ちゃん

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

と「ずっと思ってた」とあるので7話のこのシーンのセリフは
前者の解釈のほうが正しいということで良いのでしょうか。
だとするととんだミスリードです。

後出しの情報でセリフの意味が変わるのってアリなんでしょうか。
小説に詳しいかた、コメントを頂けるとうれしいです。


あとナツがちょいちょいちーちゃんへの
マウントじみた考えを出してくるのも友達じゃないと考える理由の一つです。

みんな何か持ってるのに私たちだけ何も持っていないのは惨めだ

ちーちゃんはちょっと足りない 第6話

↑この「私たちには何もない」構文はナツのセリフ内で多く散見されます

奥島くんは私やちーちゃんみたいな底辺とかかわるの恥ずかしくないのかな

ちーちゃんはちょっと足りない 第6話

ずっと自分と同等、ともすると自分以下だと思っていた友達が
最後でグッと成長した姿を見せるんですよ。
そりゃ焦りますよね。

虚構に翻弄されるナツ

旭が藤岡さんたちと遊んでいるのを目撃した後のセリフに

ずっとそっちに行きたかったんだね
旭ちゃん

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

というものがありました。

そっち = 藤岡さんたち女バス部員、奥島くんと如月さん、旭(new)
こっち = ナツ、ちーちゃん

という認識で良いでしょう。

「そっち」がどういうグルーピングなのかはっきりと言葉にするのが難しいんですよね。
いろんな属性の人が属しているので。

ただ、ナツとちーちゃん以外ということは要は
ナツの言葉を借りると「底辺じゃない組」。
これくらいの形容しかできません。

最後にはちーちゃんまでも藤岡さんにお金を返すために歩いて帰ったり、
ひとりで電車に乗るほどの社会性を身につけたりして
「そっち」に流れんとしたことでナツは焦って引き止めましたが

私は「そっち」も「こっち」も存在していないのではないかと思います。

というのもナツやちーちゃんの周りの人間は
成績や育ちの悪さなど2人の「足りない」要素をけなして蔑むようなことは
決してしないから。

第2話で今日提出の社会科のプリントをやってないとちーちゃんが言うと
(関係ないけど「プリント」ってめっちゃ懐かしくないですか)
奥島くんと如月さんは進んで残って手伝ってくれますし、

その社会科のテストが23点でも
ストレートに頑張りをたたえてくれます。

あっ今度は天下の台所おしかったね

ふぉ──頑張ったね!

ちーちゃんはちょっと足りない 第4話

ナツとちーちゃんがお箸の持ち方を間違えていても
嫌味を言う人は誰一人いませんでしたし、

私もだよ
どうでもいいよね
はしとかマナーとか

ちーちゃんはちょっと足りない 第6話

お金を盗ったことを悪いことだと認識したちーちゃんには
藤岡さん、女バス部員、奥島くんと如月さん、旭の
みなが再び笑顔を向けていました。

というかちーちゃんは普通に窃盗を犯してますからね。
それすら謝罪ひとつでまた受け入れてくれたのに
ナツが拒まれる理由がどこにあるのでしょうか。
彼らにとって相手が底辺とかそんなの関係ないんですよ。

しかしナツはどうしても一人で思考を完結させてしまうので
偏った見方しかできず、「そっち」という概念を錯覚しているのだと感じます。

堕ちた理由

「ずっと友達だよね?」と
ちーちゃんが「そっち」へ行くのを引き留め、
それが受け入れられて心から満足そうに笑うナツ。

「そっち」に行くのをきっぱりとここで諦めたのはこのタイミングでしょう。

実はちーちゃんと合流する直前まではナツは葛藤していました。

みんな変わっていくよ
私は変われないよ
置いていかないでよ
ずっと一緒にいようよ
ずっとずっとずっと

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

自身に諦めを抱くナツ。しかし

私もみんなと同じになりたいよ
(中略)
私も旭ちゃんや志恵ちゃんやちーちゃんみたいに
大切なことを大声で叫びたいよ

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

現状に抗う意志をのぞかせもします。

このあとナツは息を吸い込むも
小さく「ちーちゃん」と3回声に出すにとどまり、
ため息をつきます。

やはり私と彼女たちは違うのかなぁ…と。

そのタイミングでちーちゃんがやってきて
成長した様を見せつけられ…

心が折れたんでしょうね。
「ああ、私はそっちには行けないや」と。


ここで

「私と同類のちーちゃんも変わろうとしているんだ、
 私も変われないはずがない!」

みたいに奮起できるキャラじゃないんですよね。ナツは。

仮病でちーちゃんがお見舞いに来てくれたときに
2人で人生ゲームで遊ぶのですが、

さすがに飽きたな──
(中略)
たった2人で何度も何度もやって
しかも必ず負けるし

ちーちゃんはちょっと足りない 第6話

と内心語っています。
負けたから次は勝ってやろうとかそういう覇気に欠け、
また負け癖がすっかりしみ込んでいるのが見てとれます。

もちろん立ち上がる気力が湧いてこないほど
その時精神が参っていたのもあるとは思いますが、
ナツ特有の思考回路もこのラストシーンの判断におおきく寄与したものだと
私は解釈しています。

結末の解釈

ちーちゃんの「うん」はウソ

私たち
ずっと友達だよね?

うん

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

このあと2人は名前を楽しげに呼びあいながら
帰路に就くのですが、最後だけ

ちーちゃん
ちーちゃん
ちーちゃん

ナツー?
ナツー?

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

ちーちゃんの返答が1コ足りてないんですよ。

これが私には将来ちーちゃんがナツから離れていくことを
暗示しているように見えるんですよね。

というのもこの直前の「あともう旭ちゃんとも遊べないから」に
続く会話が

なんで!

なんでも
いーい?

ちーちゃんはちょっと足りない 第8話

なのですが
ナツが「いーい?」と確認した時のちーちゃんの表情が異様に大人びているんですよ。
まるでナツの胸中を見透かしているような。

もちろんちーちゃんにとってナツは正真正銘の友達ですが
旭とも、ナツの嫌っている藤岡さんとも今や友達です。
彼女たちとのかかわりを阻害してくるようなナツと
ずっと友達でいるような人物でしょうか?

ナツの「ずっと友達だよね?」に
「うん」と答えたちーちゃんですが
ここではちーちゃんの表情は一切描写されず、
白地の上に無機質にフキダシが乗っているのみなんですね。

このやりとりってセリフだけ見たら感動シーンじゃないですか。
ふつう喜びにあふれたキャラの顔を一緒に描き入れるべきコマです。

お見舞いのシーンでナツがリボンを買えたことを感謝したときは
ちーちゃんは目を細めて同じく「うん」と言っているんです。
まわりにパアァッ…と喜びを示すあの粒子的なものを散らしながら。

藤岡さんにゲームしたいならうちに来い、と言ってもらえた時も
「うん!」と同じような構図で笑っているのです。

こういう前例を踏まえると、ラストの「うん」は
はたして本当に額面通りに捉えていいものなんだろうか、
と思わざるをえません。

ナツはこれからどう生きるのか?

ラストシーンを迎えるまでのナツは
攻撃的で邪な考えが浮かんだとき、またそういう発言をしたときは
少なからず気まずそうだったり苦悶の表情だったりを浮かべていました。
顔を真っ黒に塗りつぶされて汗を滴らせる描写なんかもたびたび挟まれました。
本当はこれじゃいけない、と葛藤をしている証拠だと思います。

ただ「ずっと友達だよね?」の時は唯一笑顔でした。
葛藤をやめ、自分の負の側面を許容してしまったように感じられます。

「そっち」側にいくことを諦めたわけですから
これからはちーちゃんがなびかないように目を配りつつ、
いざ自分から離れていく様子が見えれば
焦り、嫉み、絶望する…というのがナツの歩む道のように思います。

そしていつかちーちゃんが完全にナツから離れた日には
ナツは真に孤独になるのでしょう。

希死念慮を持っているキャラなので、
もしかしたら自死を選ぶかもしれません。

まわりにはナツのことをよく思っている人がたくさんいたのにも
関わらず、です。皮肉なものです。

本作は明確なバッドエンドでもないし、
かといってハッピーエンドとも言い難いんですよね。


私はこの作品の終わりかたはちょうど
「イカダひとつで海に漕ぎだす様」
のようだな、と思いました。

漕ぎでたばかりなので何も今すぐ死ぬわけではないですが
コンパスも地図も何もないので陸地が見つからなければ
近いうちに死を迎えます。

その場合、死因はなにか。
身一つで海に出ているので餓死でしょう。
餓死というよりは正確には喉が渇くために死にます。

海という大量の水に囲まれながら、喉の渇きで死んでいくのです。

締めの雑感

まず、出会えてよかったですね。このマンガに。
読んでてまったく退屈しませんでした。
不快感を覚えるキャラがいなかったのも個人的にポイント高いです。

ナツは?と言われそうですが私はナツ好きですよ。
このレビューではさんざんdisってしまいましたが。

まずビジュアルがかわいい。
自分のことを芋っぽいと評していますが
第8話とかめっちゃおしゃれなんですよ。

トップスは白シャツの上に、胸元がV字に大きくあいた黒いカーディガン。
ボトムスが黒タイツに明るめのプリーツミニスカート。
足元はぺたんこブーツ。

髪色は明るく、ボブを1~2ヶ月放置した感じ。太眉。
美意識は高い方でしょうから、経済的な事情がうかがえます。

正直めっちゃかわいい。

せっかくなので描いてみました。

性格についても感情を表に出さずに
心の内でなんとか処理しようとするところはとても共感できます。
愚痴とか言えないタイプでしょうね。
そのくせ人の陰口はスッと出てくるのがちょっと怖いですが。
でも中学生ってそんなもんですよ。記憶をたどってみれば。

ちょっと対人関係が不器用で繊細なだけのフツーの子なので
救われてほしいですね…

ナツ好きと言ってるだけでこの締めが終わりそうです。
本作で内心が描写されるキャラはナツだけなので
どうしても愛着がわいてしまいました。

最後に「ちーちゃんはちょっと足りない」を読んだ方に質問です。
いや質問というより協力願いですね。

95ページでナツは「ねえちーちゃんさあ」
に続けてどんなことを言ったのでしょうか。

ここのちーちゃんの表情が怖すぎて…
気になるんですが私は見当がつきません。
どうかコメントをよろしくお願いいたします!

さて、まだ本作を読んでいないのに
レビューをここまで読んでしまった方もいるかと思います。

まずはここまで読んでいただきありがとうございました。

そして、まだ間に合います。
このレビューで取りこぼしている本作の魅力はたくさんあります。
ここまでレビューを読んでいるということはきっと気に入るはずです。
(ここまでで70分くらいかかるらしいです)
ぜひ本作を読んでみてください。

https://www.cmoa.jp/title/76691

ちなみにこのレビューは他の方の感想記事を読まずに書いてみました。
いや、正確にはAmazonの上位のレビューだけ
購入直後にちょろっと流し見しちゃいましたが。

やっぱり感想は純度が高いに越したことないと思ったので。
次回以降もまた漫画などのレビューをする機会があれば
このスタイルでいこうかなと思います。

今後は作者の阿部共実さんの他の作品も読んでみようかなーと
思いつつも、本作のような遠回しに鬱をにじませてくる作品を
他にも読んでみたいなと思ってもいます。

次回は未定ですが、またこういった記事を書く機会があれば
読んでいただけると嬉しいです。

ということで「ちーちゃんはちょっと足りない」のレビュー記事でした。
かなり好きな作品です。
阿部共実さんありがとうございます。

そして画面の前のあなたにもお礼を。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

それでは!

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